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市政・研究

荒崎水害で見えてきたこと

2002.10.3

笹田トヨ子レポート

なぜ荒崎地区の水害は起きたか?

 台風6号などによる大雨は、各地に浸水被害をもたらしたが、大垣市においては荒崎地区の被害が際立っていた。大垣市内の床上浸水の90%は荒崎地区に集中している。その原因ははっきりしている。大谷川の荒崎地区側に洗堰があり荒崎地区が遊水地の役割を果たしているからである。この洗堰は昭和34年に完成しているが、荒崎地区と対岸の静里地区と綾里地区の3町合意により作られたということであるが、その詳しい経過は分からない。

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(平成14年7月10日、大垣市荒崎地区にて撮影 写真提供:佐藤英樹さん、大垣市荒崎地区住人)

 その当時は茅場といわれ、人家はなかった。昭和40年頃、相川左岸堤が決壊し土砂が島町の田んぼに流れ込んだ。その土地に、大垣市は昭和43年から島住宅の建設をはじめたということである。その後、県営の荒崎団地が建設されて住宅化が進んだ。そして、昭和50年に市街化地域に指定される。この地域は今までに14回の浸水被害に遭い、一度は洗堰の嵩上げが行われたが、その後も度々浸水被害にあっている。

荒崎地区の水害で明らかになってきた問題点

  1. 遊水地を住宅化した行政の過ち
     荒崎地区水害の直接の原因は、大谷川の洗堰からの溢水である。 しかし、あれだけの豪雨であれば遊水地機能を持つ荒崎地区が浸水することは当初から分かっていたことである。問題はその遊水地機能を持つ荒崎地区を市街化地域に指定し住宅化を進めてきたことにある。この地域の市街化を進めてきた行政の責任を問うと、「当時は水がつくとは思わなかった」という答弁である。しかし、市街化になった当時から浸水被害は起きており、あれから20年の間に水は何回もついているが状況は変わっていない。
  2. 徳山ダム待ちの治水対策では荒崎の水害は解決しない
     地域の人々は、荒崎の水害をなくすために「洗堰をなくして欲しい」という要望を度々行政に訴えている。そのたびに行政は「徳山ダムの完成時に、洗堰の嵩上げをする」と徳山ダム完成待ちの対応であった。果たして、徳山ダムが出来れば問題解決になるか。今回の水害で明らかになったことは、揖斐川の水位が低い段階から大谷川の溢流が起きており、今の状態では、荒崎の水害は徳山ダムあるなしにかかわらず起きてくることである。
      今回、大谷川から溢流し始めたのが10日の朝6時頃と言われている。この時点での揖斐川万石地点の水位は2.32m、ところが牧田川烏江地点は8.35mとなっていた。大谷川の溢流の問題は牧田川、杭瀬川、相川などの合流地点の河川改修が大きな課題であることは、誰もが分かっていることである。
     過去の荒崎の浸水被害がどのような状況で起きているか検討してみれば、徳山ダム完成待ちなどという対策が、荒崎の水害にとって何の役にも立たないことは明らかである。ところが、大垣市9月議会では、渡辺議員の「徳山ダムは治水対策として有効か」という質問に対して、市の答弁は「横山ダムによって54cmの水位の低下が見られ、徳山ダムが完成すればさらに43cmの水位低下が予測される」という国土交通省中部地方整備局  の発表を答えたのみで、今回の荒崎の浸水と徳山ダムの関係については何ら答えになっていなかった。

荒崎の水害をなくすために、まず何をなすべきか?

以下は、在間弁護士の論文(2002.8.30)の一部である。

・・・荒崎地区は1975年8月洪水でも、洗堰の越流により浸水を受けている。建設省中部地方建設局木曽川上流工事事務所『台風6号調査報告書』1976年5月p63〜p68は、「当地区は下流部に牧田川,杭瀬川の狭窄部があり大谷川、相川の水がはけないために一時遊水地域として昔より利用されてきたところである。・・・当地区もいずれは締め切られるであろうが、締め切られるまでには、杭瀬川高渕の引き堤、相川、大谷川の合流点から杭瀬川までの河川改修が行われた後になろう。そうでない限り、この洗堰を締め切ればその結果として、他の地区にその効果が及び、より以上の被害が起きることは必至である。また、洪水は最終的には人為に制御し得ないという立場をとるべきであり、超過洪水(計画規模を越えた洪水)が発生した場合により被害を小さくするには遊水地域は必要である」と述べている。また、高橋裕(河川工学、元河川審議会委員)は、「かつて両岸の堤防の高さがちがう河川は多く、低いほうに家を建てなかった。1960−70年代にかけてそういうところも宅地化が進んだ。水があふれるに決まっている場所を市街化地域の変更したのは間違い。岐阜県は荒崎地区だけで対岸や下流の住民と専門家でつくる委員会を設け揖斐川や周辺河川を含めた新しい形の総合治水を考える必要がある。」(中日新聞2002年8月5日夕刊)と指摘している。

 同報告書や高橋がいうように、洪水を河道から堤内地に越流させる洪水対策は、日本で昔からある方法で、河道負担を緩和し、また、超過洪水での被害防止・軽減方法として、重要である。そして、洪水越流による家屋等の被害を防止する方法として、堤内地のおける輪中堤がある。西濃地域は、古くから輪中が発達した地域であって、治水の思想や方法として、最も進んだ地域である。高橋が指摘するように、洪水は河道から溢れるものであることを前提として、流域の住民や専門家で委員会を設けて、新しい形の総合治水対策を構築することが必要である。その場合、西濃地域の先人が築き上げた輪中から学ぶことがまず必要である。・・・

荒崎地区の人の話では、浸水の状況は年々ひどくなっているとのことである。昔は島団地のところまでは水がつかなかったが、最近では毎年避難勧告が出ている。宅地化が進み、田んぼがつぶされ、あちこちにあった遊水地もなくなってきたこと、各地域の内水をポンプで川に汲み入れ、河川の負担を増大させてしまったことなどが原因と考えられる。

 専門家が指摘するように、洪水は最終的には人為に制御し得ないという考え方に立ち、超過洪水が発生した場合は遊水地域と輪中堤により被害を最小限度にとどめる自衛策が必要と考えられる。

 遊水地に住宅が建ってしまった荒崎地域はどうするべきか。十六町のように遊水地から住宅を分離する輪中堤をつくることである。ある住民の方が、「なぜ荒崎地区だけ、水害を引き受けなければならないのか、せめて右岸堤と同じ高さの堤防を造って欲しい。それでも水がつくのであればあきらめもつく。」と嘆いておられた。

 行政は、「徳山ダムが完成し下流の河川改修が終われば最終的に洗堰を閉める」というが、果たして洗堰を閉じて遊水地をなくしてよいものか。荒崎地区の人々も「洗堰を閉じて欲しい」というのが悲願ではあるが、輪中堤をつくり遊水地はそのまま残し、大谷川だけではなく各河川にも遊水地をつくることで水害の負担を分け合うことが大切ではないか。

 まず、その第一歩は、「荒崎輪中」を造るところからはじめるべきである。

遊水地に大垣市の一般廃棄物最終処分場があった!

 今回の水害でもう一つ重大な問題が明らかになってきた。遊水地に大垣市の一般廃棄物最終処分場が存在していたこと、そして今回の水害で遮水ゴムシートの隙間から処分場内に水が入ってしまったことである。そのため大垣市は処分場内の水が外に流出したか、そして有害物質が外に漏れてしまったか、処分場内外の水質検査を行った。その結果が9月議会に報告された。

 この報告書によると、場内の汚水はバキュームカーで汲みだし、浄化センターなどで処理された。ダイオキシン類は通常水に溶け出すものではなく、灰といっしょに沈殿するため、分類して水だけ放流し沈殿物はクリンセンターに戻し焼却したとのことである。以上のことから、ダイオキシン類など危険物質は外には出ていないということであるが、この経過を通して、大垣市の一般廃棄物最終処分場の問題点が明らかになってきた。

処分場内外の水質調査結果(ダイオキシン類)

調査地点
採水日
処分場内
H14.7.11
処分場内
H14.7.12
処分場外東
H14.7.11
処分場外西
H14.7.11
処分場外南
H14.7.11
放流水
H14.7.11
周辺地下水(下流)
H14.7.12
ダイオキシン類
(pg-TEQ/L)
82 58 0.38 0.68 0.048 0.91 0.11

(参考)一般廃棄物最終処分場の排水基準10pg-TEQ/L以下、地下水環境基準1pg-TEQ/L以下

1)管理型処分場で高レベルのダイオキシン類が検出されたこと

 大垣市の一般廃棄物最終処分場は「管理型」である。通常、管理型処分場は搬入されてくる焼却灰はさほど有害でないものとされている。ところが今回の調査結果をみると、ダイオキシン類が処分場内で「82pg-TEQ/L」とあり、排出基準値の8倍以上にもなっている。大垣市の一般廃棄物は、クリンセンターの焼却炉からでる煤塵をセメント固化したものである。

 この大垣市の一般廃棄物最終処分場の使用期限は平成4年から平成19年までになっており、はじめの4年間は古い焼却炉で処理されたものが埋め立てられている。そのときの廃棄物が問題なのか、それとも今の焼却炉からでる煤塵のセメント固化が問題なのか、ダイオキシン類の高値の原因は不明である。しかし、これは放置できない問題である。

2)遊水地に最終処分場を建設したことについて

 この大垣市の一般廃棄物最終処分場の建設は平成2年から始まった。この年、荒崎は床上浸水の被害に遭っている。建設当時から水害の危険性は分かっていたはずである。処分場は大谷川の堤防と同じ高さの堰堤がつくられており、今回も堰堤を超えて流入したわけではないが、大谷川洗堰から溢れた水で処分場はほぼ埋まり、その水圧で処分場の堰堤に水がしみこむ状態になっていた。今回、幸い崩れるところまでに至らなかったので、中のダイオキシン類などは外にもれ出ることはなかったが、水が入るたびに汚水を搬出してろ過したダイオキシン類を戻し続けなければならないこと、また分解しないダイオキシン類を永遠に管理するということ、又いつなんどき堤防が崩れるかもしれないとうい危険にさらされているといった状況は変わらない。

3)住民に対する一般廃棄物最終処分場についての情報公開がなされていなかった

 民間の産業廃棄物に対しては、1年に1回の監査や搬入時の廃棄物の検査が義務付けられている。また、地域住民と公害防止協定を結び、報告が義務付けられ、年に数回の立入り(見学会)が行われているとのことである。

 ところが、大垣市の場合、建設にあたり地域住民の同意書をもらったということであるが、地域住民との協定書のようなものはなく、地域住民の中には、処分場の存在も知らない人が多数いる。もちろん、監査は行われておらず、地域住民への情報公開は行われていなかった。今回たまたま水の流入で水質調査を行ない、ダイオキシン類が基準値より8倍も高いということが明らかになったが、大垣市は今まで一度も搬入前に廃棄物の検査を行っていなかった。このように、法にはふれてはいないかもしれないが、あまりにも民間の産業廃棄物の規制と比べてずさんな管理状態になっている。

photo 最終処分場を視察しました。(本人写真中央)

今後の対策として

 まず、1.地域住民に今回の事故について説明を行うこと。2.公害防止協定を結び、報告会や立入りを義務付けること。3.処分場に8倍以上のダイオキシン類が存在することが明らかになった以上これに対する解決策を提示すること、などが求められる。

 通常、管理型処分場とは、廃棄物がいっぱいになり処分場を閉めてから10年間は排水データをチェックし、有害物質が出ないことを確認してから、シートに穴を開け、その後は普通の土地として活用することになっている。

 大垣市の処分場が本来の管理型処分場として機能するためには、上記の問題を解決してはじめて住民同意が得られるものと考える。大垣市の誠実な対応が求められる。

以上

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